Update:Dec.02/2010


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■ストック■

このページは、私が個人的に所有している117クーペ関連の資料を、ほぼ原文のままデジタル化(テキストデータ化)して掲載しているものです。従って、ここでは本文中に私の個人的な私見が出てくることは一切ありません。また、ページレイアウトの反映、挿入写真、イラスト等は一部省略しています。

 − 注 −

以下に示す文献は、あくまでもUnofficialであり、いすゞ自動車(株)の了解を得て掲載しているわけではありません。
転載はご遠慮下さい。
入手ルートについてはお答えできかねます。が、本文献自体は発行時各所に配布されていたものであり、決して非公開資料というわけではありません。
スキャナーによるOCRが元となっているため、誤字が含まれている場合があります。お気付きの際はご指摘願えれば幸いです。
執筆者の長谷川氏は、小型エンジン設計部(当時)で名作G161Wを開発なさった方です。


 い す ゞ 技 報 第62号(1978年)

UDC629.114.6.002.61


− いすゞ新型117クーペについて −

by Ryuichi Hasegawa


1.まえがき
昭和43年に発売した117クーペは、高性能1.6リッター,DOHCエンジンと美しいスタイルを特教とする少量生産の高級スポーツクーペとしてスタートした。その後、1.8リッターエンジンの搭載、普及型パージョンやオートマチックトランスミッション仕様の追加を行なうとともに、生産面でも合理化をはかってきたのでスペシャルティカー市場の成長とともに順調な発展をとげ、この数年間は月産1000台の地歩を固めている。
一方この数年間における乗用車の質的向上には目覚しいものがあり、ユーザーの要求も高度化してきた。

写真1.117クーペ外観

写真2.計器板廻り


スタイルでは好評を得ているこの車も、高級スポーツクーペとしての走行牲と快適性、装備等を近代化し、より高い水準に向上させて市場の要望にこたえる必要を生じたので、今回の大巾な改良を施すことになった。
また内・外装のデザインも、全体の改良にともなってリフレッシュを行ない、商品性をより高めることとした。

2.開発のねらい
78年型117クーペのモデルチェンジのねらいをー語で表わすとすれば、"成熟"とか"充実"といった言葉が適当であろう。単なる見せかけや目先の変化でなく、スベシャルティカーとして、実用車とは違った意味で要求される性能・機能・仕上げを充実し、完成度を高めることである。
以下にモデルチェンジのねらいをのべる。
(1)動力性能
厳しい排ガス規制により、ややもすると、妥協しがちな動力性能であるが、117クーペに求められるスポーティな性能を確保するため、エミッションコントロールシステムの改良によるドライバビリティを向上し、さらに、最終減速比の見直しを行なう。
(2)操縦性・操作性の向上
ステヤリング系およびサスペンション改良により、操舵カを軽減すると共に、直進時・旋回時のフィーリングを向上させる。また、パワーステヤリングを開発し、その特性はスポーティな117クーペにふさわしいものとする。各種スイッチ,レバー類の配置を改善するほかギヤコントロール改良による操作性の向上をはかる。
(3)安全他の向上
使い易く、使い心地の良いシートベルトは装着率を高め安全牲が向上するという考えから、78年型のシートベルトシステムは連続3点式としELRは装着時に圧迫感のないテンションレデューサ付とする。
低踏力時のブレーキ性能向上のため、マスタバックのサーボ比を上げる。ウォーニングシステムを充実する。
インストルメント上部・下部を厚くソフトなパットで覆う。など多項目にわたり安全性向上をはかる。
(4)快適性・使い易さの向上
エアミックスタイプのエアコンディショナの採用による空調性能を向上する。
フロントシートはフルリクライニングを可能とし、助手席にはウォークイン機構を追加する。
シートベルトのリトラクターをリヤサイドパッド内に納め、後席の乗降を楽にする。トランクオープナを採用する。XEには4スピーカーステレオを採用する。などのほかに徹底した車内騒音低減により快適性を追求する。
(5)内・外装のリフレッシュ
117クーペの美しさ、豪華さをそのまま生かし、より近代的な感覚でリフレッシュをはかる。
外観では角型4灯式ヘッドランプ,ラバープロテクタ付バンパの採用,内装は計器板廻りのデザインをー新し、室内の色調,シートの表皮材料の選定により、室内雰囲気をよりー層高級感のあるものとする。
(6)バリエーションの充実
 従来エンジンのタイプと室内装備の関係が固定されており、ユーザーの好みに対し線でこたえるだけであったが、'78年型のラインアップはエンジンと室内装備の関係をときはなし、これらを縦・横に組合せた面に構成し幅広いユーザー層に対応可能とする。

表1.主要諸元表

車種 XE XG XC XT
仕様 XC-J XT-L


全長(m) 4.320 <--- <--- <---
全幅(m) 1.600 <--- <--- <---
全高(m) 1.325 <--- <--- <---
ホイールベース(m) 2.500 <--- <--- <---
トレッド(m)  1.350 <--- <--- <---
1.315 <--- <--- <---
客室寸法(m) 1.675 <--- <--- <---
1.290 <--- <--- <---
1.070 <--- <--- <---


車両重量(kg)  ※1135 [1145] 1125 1080 1055 [1070]
車両総重量(kg)  ※1355 [1365] 1345 1300 1275 [1290]


最高速度(km/h)  180 [170] 180 175 175 [165]
登坂能力(tanθ)  0.60 [0.57] 0.60 0.60 0.48
燃費率
(60km/h・km/l) 
16.0 [13.5] 16.0 16.5 15.5 [13.5]



機類  直4・DOHC <--- 直4・SOHC <---
総排気量(cc)  1817 <--- <--- <---
最高出力(PS/ rpm)  130/ 6400 <--- 115/ 5800 105/ 5400
最大トルク
(kgm/ rpm) 
165/ 5000 <--- 16/ 3800 15/ 3800







変速機 5速手動または
3速自動
5速手動  <--- 5速手動または
3速自動
減速機(減速比)  ハイポイド
(4.100)
<--- <--- ハイポイド
(3.727)
かじ取装置(歯車比)  R・B式
パワー付(17.1)
R・B式
(18.9 〜 22.2)
<--- <---
タイヤサイズ  185/70 HR-13 <--- 165 SR-13
(XC)
645-13 -4PR
185/70 HR-13
(XCJ)
制動装置  ウィッシュボーン <--- <--- <---
半楕円板ばね <--- <--- <---
トルクロッド,
スタビライザ
<--- トルクロッド付
※印は参考値を示す。[  ]内は自動変速機付


3.車種構成および主要諸元
エンジンとトランスミッションの組合せによる基本車種は、従来の4種にDOHCエンジンと5速マニュアルミッションの組合せを追加し、5種とした。加えて、DOHCエンジンを装備しスポーティな内装の"XG",エンジンはおとなしいがラグジャリな内装の"XT−L",従来通りのお洒落な車"XC−J",など内外装仕様をパッケージオプションとして組合せた応用車を準備した。なお、パワーステヤリングは"XE"と"XT−L"に標準とした。

4.デザインについて
4−1.基本構想
PRESTIGE COUPEとして独自の車格を主張してきた117クーペにとって、このフェイスリフトは単に変り映えのための変化をつくるものではなく、HIGH IMAGE,HIGH QUALITY志向をー層強調し、伝統的なクーペの中に新しい総合牲能と、新しい感覚を加えての個有特性の高度化と品質の充実がデザインの目的であった。
格調高いクラフトフィーリング,精鋭で重厚な動感を新たに顕在化させるための内外装リデザインである。
4−2.外装備のデザイン
全体の印象は水平安定感を強め、シンプルな中に充実した動感をねらった。(a)オリジナル・スタイルの最小限の変更により空力的成果の大きいエアダム型の新しいフロントエンドパネルを新デザインとし、(b)伝統的クーペの主流であったスリムバンパをワイドにし、独自の構造を採ることによって、全周プロテクトラバーモールド付きでオリジナルイメージを新鮮なものにした。(c)個有の風貌を印象づけていた丸型4灯ヘッドランプを角型シールドビーム4灯にし、1体型の新ラジエターグリルと共に新しい117クーペの主張を具体化した。(d)リアコンビネイションランプ周りはブライトリムを外周のみに残し他をリアガーニッシュと共にブラックフェイスとしてフロントビューとのバランスを採りつつシンプルにした。(e)117クーペレタリングを彫り込んだ新しいアルミディスクホイールを新作し、専用部品とした。
4−3.内装備のデザイン
今回のフェイスリフトの重点は、むしろ内装備にあったといえる。操作性、視認性、居住性、安全性等々、装備機能の向上充実と、快適感の追求により従来の117クーペの体質を、一層信頼性高いものにするべく外装備同様・変り映え効果をねらわず、培ってきたキャラクターを育てあげる方向でデザインした。(a)高性能エアコンディショニングと6個のベントグリルをビルトインしたインストルメントには、スピードメーターとタコメーターを円形に、6個の集中ウォーニングランプ群と個別にそれぞれウォーニングランプを備えた4つのゲージメーターを角形に配置し、無反射式の視認性高い新デザインとした。(b)従来一種だったステアリングホイールを、キャストウッドの3本スポークタイプと、レザータッチの2本スポークタイプの2種にした。何れも信頼感を与える独自のデザインである。(c)ブラジリアンロ−ズウッドの本木目の材質を継承する一方、新たにブラックヘアラインとシルバーヘアラインの計3種のインストルメントマスクをデザインし、インストルメント周り,コンソール,ステアリングホイール等含めて、運転席周りの印象を手ざわりの感触,コクのある充実感,格調高い重厚さを味わえる品質をねらった。(d)装備の充実に供ないルームランプと2個のスポットランプ及びシートベルトとドアのウォーニングランプを組込んだ薄型のオーバーヘッドコンソールを新設した。(e)シート,トリムのリデザインに供ない、表皮素材を一新した。殊に車格毎に使いわけるモケットクロスと新パターンのファブリック及び2種のカーペット材と、カラースキームで新117各車のインテリアデザインをコーディネイトした。
標準シリーズのXE,XC,XTに加えXG,XC−J,XT−Lのバックシリーズは、内外装備に加え、バンパ,ドアサッシュ,サイドシル,デカール等のカラーデザインで一層鮮明に性格付けをし、多様化するユーザーに応えた。
この117クーペのフェイスリフトは、117らしい味わいを深め、使うほどに満足してもらえる信頼性を盛り込み、本格派2ドアクーペを志向したデザインである。

【つづく(2001/09/14,10/19更新)】

5.各部の特徴
5−1.エンジン
117クーペには、表1に示すように1.8リッター,DOHC,130PS,電子制御燃料噴射式ガソリンエンジンを含め三種類を搭載し顧客のニーズに応えた。
つまり、最高級XEおよびスポーツ指向のXGには、DOHC,ECGI,130PS,主力車種XC系にはSOHC,ECGI,115PS.経済型のXT系は、SOHC.シングルキャプレタ,105PSエンジンをラインアップさせた。
78年型においてはXE,XGに対する5速マニュアルトランスミッション仕様車追加に関連し、DOHC,ECGI付エンジンの改良に主眼を置き次の変更を行った。
(1)51年度排出ガス浄化対策
従来の排出ガス浄化システムI・CAS-Dを基本とし、パルスAIRの改良による二次空気の増量、EGRシグナルの適正化(EGRシグナル保持装置の廃止、スロットバルブのシグナルポートの改良),エンジン改良として、バルブタイミングの変更、点火時期および点火進角特性の見直しなどにより燃費ドライバビリティの向上をはかりつつ、51年度排出ガス規制値を満足させた。
(2)動力性能の向上
排気系系の集合部改良による排気干渉の防止,点火進角燃費流量の適正化等により、高出力性能を確保しつつ、低中速トルクの向上をはかった。
(3)アイドル安定性の向上
コントロールユニットにアイドル増量回路を設けるとともに、エアフローメータのアイドルアジャストスクリューを調整式式とし、アイドル安定姓の向上をはかった。
(4)冷却性能の向上
電子制御燃料噴射付エンジンの特教を利用した、エアバイパス式のファーストアイドル機構を採用し、クーラーON時のアイドル安定牲および冷却性能の向上をはかった。
5-2.駆動系
(1)クラッチは従来から実績のある装置をそのまま流用した。フェーシング材質も、XE,XG,XC系に耐摩耗性を重視したセミモールド系を、XT系に耐ジャダー性を重視したスペシャルウーブン系を従来通り使い分けている。
(2)手動変速機は、本体は従来のオーバドライブギヤを有するクロスレシオ5段変速機を使用しているが、コントロール系については、同様のエクステンションタイプながら、後端を弾性支持している通称フロアリモート式のマウンティングラバーを見直した。
これにより、フロアリモートコントロール系が伝達経路となっているギヤノイズやエンジン振動を抑えることができ、室内静粛性が向上した。

図3に5速手動変速機を示す。

図3.5速手動変速機


自動変速機では、高速型ガバナーを採用して動力性能を向上するとともに、スロットルカムの形状を変更してアクセルペダル踏力の軽減をはかった。
プロペラシャフトはXE,XG,XC系に3ジョイント2分割式を採用し、高速域の室内こもり音を大巾に改良するとともに、2分割プロペラにあり勝ちな発進時のビビリ振動もジョイント角度を適切に選定する事により防止した。図4に2分割プロペラシャフトを示す。

図4.プロペラシャフト

(3)終減速機については、従来ギヤ比3.727一種類であったが、XE,XG,XC系に4.100を採用、動力性能の向上をはかった。また、内容部品の一部をジェミニ用終減速機と共通化した。

【つづく(2001/11/24)】

5−3.シャシ
(1)ラジエータは、エアコンの能力アップに対応するため、大型化し容量を14%アップした。
(2)エキゾーストは、低速トルクの向上および低燃費化のため、集合部分の形状変更をした。
(3)ステヤリング系の剛性をあげるため、ステヤリングリンケージを変更した。新リンケージを図5に示す。

図5.新ステアリングリンケージ

(4)マニュアルギヤボックスは、操舵力軽減および剛姓アップのため、セクタシャフトのベアリングをプレーンベアリングからニードルベアリングに変更し、バリアブルギヤ比を18.9〜22.2に変更した。
(5)新たにインテグラルタイプのパワーステヤリングを開発し、最高級モデルのXEには標準装着、他のモデルにはオプションとした。このパワーステヤリングは、低速走行時には軽く、高速走行時には適度の操舵カとなるように、後述するエンジン速度感応型のオイルポンプを採用した。このオイルポンプの特性の設定と、キャンバを30’、キャスタを1゜45’に変更したサスペンションのアライメントの設定と相まって、充分に納得のいく性能設定ができたと自負している。なお、バルブ機構はロータリーバルブを採用した。
(6)エンジン速度感応型オイルポンプについて
オイルポンプに内蔵されているフローコントロールバルブによって、ポンプの回転数が上がるに従ってステヤリングユニットへ流れる油量が減少し、操舵力を常に適度の重さに保つことを特徴としている。この流量特性を図6に示す。又ハンドルを操作することにより、流量は負荷に応じて復帰する構造になっており、山岳路走行のように、エンジン回転数は高いが車速が低いといった場合には、必要なパワーアシストが得られる。

図6.流量特性

(7)ステヤリングコラムは、スイッチまわりの変更に合わせてボールタイプの安全コラムを採用した。
(8)ステアリングコラムのダッシュパネルへのマウント部にラバースリーブを追加して、組付時のミスアライメントによるフリクションの発生を防止し、操舵フィーリングの改善をはかった。
(9)パワーステアリング装着車のポンプによる油の脈動音防止のため、ポンプからパイプヘのフレキシブルホースはGMパテントによる消音ホースを使用した。
この消音ホースだけでも充分であるが、更にステヤリングシャフトとユニットとのカップリングにラバーカップリングを使用し、更にパイブをポデーへゴムマウントする事により、脈動音対策には万全を期した。又、このラバーカップリングは、騒音対策以外に、パワーステヤリング装着による、切り過ぎ感および車の動きの速さの緩和も狙っている。なお、マニュアルギヤボックス車のカップリングは従来通りナデラジョイントを使用した。
(10)パワーステヤリング装着車のステヤリングホイールは、操舵感を損なわないように、小径で慣性能率の小さいステヤリングホールを採用した。なお、マニュアルギヤボックスのXG,XC−J,XCにも同じステヤリングホイールを採用し、スポーティさを狙った。
(11)サスペンション,ステヤリングのボールジョイントは、剛性の高い一体成形の樹脂製ボールシートを採用することにより、無給油脂化すると共に、適度なフリクションを与え、走行感と操舵感の向上をはかった。
(12)リヤサスペンションは、新たにリヤスタビライザをXE,XG,XC−Jに標準装着として設定し、走行性能の向上をはかった。なお、XCにはオプションである。図7に装着状況を示す。

図7.リアスタビライザー

(13)XGには新たに減衰力の高いショックアブソーバを採用し、よりハードな走行にも耐えるようにした。
(14)リヤエンジンマウントは、バネ定数の見直しを行なうなど、車内騒音の低減をはかった。
(15)ブレーキは、フロントディスクブレーキのパッドを、よりμが高く、より安定性の高いパッドを開発する事により、より一層のブレーキ性能の向上をはかった。
(16)ハンドブレーキについては、基本レイアウトは変えていないが、リレーレバーのレバー比を変更すると共に、各部摺動抵抗を低減することにより、操作フィーリングの向上をはかった。
(17)ロードホイールでは、アルミホイールを新設計のものに変更し、今までのものより軽量化をはかった。
XG,XC−Jには標準装着,その他のモデルはオプションとした。なお、XC−J用は鋳肌面を黒塗装として精悍な感じとした。

【つづく(2002/04/06)】

5-4.艤装
(1)シートベルト
事故により死傷者を低下させる最も効果ある方法の一つとしてシートベルトの着用率の向上が叫ばれている。
これにこたえるために、シートベルトの使い勝手を大巾に改良することが必要であり、78年型の改良項目の大きなテーマとしてこれに取組んだ。仕様としては、サッシュガイド付のワンループシステムで、車体G感知式リトラクタを車体にビルトインし,車の中央側のバックルはベルト着用の片手操作を可能とするためブーツ付とするという全面的変更を行った。シートバックの側面にはEPDM製のフレキシブルなべルトフックを設け、2ドア車では一般に悪化するベルトの取出し易さを改良した。さらに、ベルト着用中の圧迫感を減らすため、新機構のテンションレデューサをリトラクタに内蔵した。

図8.シートベルトシステム

これはシートベルトを着用するという乗員の自然の動きで2段階に設定した巻取りばねの弱い方に切替り、乗員への圧迫を低減させる。また、ベルトの格納時にはこの弱いばねである長さのベルトを巻込んだ後、通常の巻取ばねに戻って格納を完了させるという便利なものである。
(2)シート
フロントシートのばね構造をバイタフラム方式からコイルテンションばね方式に変更し、今迄の長所を生かしたまま体圧分布の改良を計った。この変更に合わせてヘッドレストやシートのデザイン形状の一新を計り、室内雰囲気をリフレッシュさせる事が出来た。

写真3.シート(XG,XC−J,XT)

リヤサイドトリムの新デザインに合わせフロントシートバックの倒れ角を増して便利性の改良を計った。さらに、後席乗員の乗降性向上のため、後席から操作する左フロントシートバック前倒れ用足踏みペタルを設けた。これでシートベルトリトラクタを事体にビルトインしたことと相まって後席居住性・乗降性を大巾に改良することができた。表皮材として新たにベロアと大柄チェック模様のファブリックの2種類、計6色のものを開発し商品性を向上させた。
(3)空調システム
空調性能を飛躍的に向上させることを重点にして詳細な目標品質を設定して開発を進めてきた。オールシーズン・オールウェザにわたって快適な空調性能を得るべくエアミックス方式の採用を決め、寒地・熱地に於ける性能は勿論のこと、中間気温に於ける空調性能としても最高のものとすることができた。この性能を得るべくインストルメント・パネルまわりのスペースについては重点的割つけを行い、吹出し口も中央部2個,左右各1個のほか左右乗員の中央に腰や足元への吹出口を設け、各吹出口は開閉ができる様にした。また、各吹出ロからの空気温度を一定にすることのほか、バイレベルモードでは逆に上下吹出し温度に差を設けるという相矛盾した目標をかかげ、数多くの試作・実験をくりかえし、エア・ミックスチャンバにエ夫を凝らし頭寒足熱型の理想温度分布とすることができた。後席のヒータ性能向上のためリヤヒータダクトをコンソールに内蔵した。

図9.エアミックス式エアコンシステム

(4)インストルメントパネルおよびコンソール
新デザインのインストルメントパネルは空調性能の飛躍向上、仕様面の充実ばかりでなくエアコンデショナのコントロールや灰皿などの位置、照明など操作性の向上を計るという基本方針にもとづいて全面的改良を加えた。
(5)インシュレーション
高級車117クーペにふさわしく、より静粛な車にするために室内のインシュレータ類の仕様を全面的に見直した。インシュレータ取付面積を増し、シール性向上のため、インシュレータの切欠きや穴の大きさは、従来のものに比べ、できる限り小さなものにした。制振材のアスファルト・シートも厚さを2mmから4mmに変えて性能の向上を計った。他の多くの騒音対策と合わせて、従来の車に較べ格段の静粛さが得られた。
(6)その他の内装品
オールナイロンのカットパイルカーペットを採用した。
床面のカットパイルカーペット,ベロア地のシートトリム材,ドアトリム下部に取りつけたカーペットなどが相まって、室内雰囲気をより豪華にすることができた。
リヤサイドトリムは、缶ジュースなど数本が格納できる物入れを設け、シートベルトリトラクタを内蔵すると同時にデザイン形状を一新した。真空成型表皮にウレタンフォームを注入発泡してソフト感をもたせ、造形的にも117クーペにふさわしいものにすることができた。ドアトリムパッドは、ドアウエスト部のパッド厚さを13mmに増してソフト感を出すと共に、新しいトリムパターンも採用した。
室内後写鏡は、調整用ポールジョイントの位置をミラーボディの後面から上部に移し調整可能範囲を大巾に拡げると同時に鏡面サイズもより拡大したものとした。

【つづく(2002/09/29)】

5-5.補機関係
(1)ランプ関係
ヘッドランプは国産車で初めて角型4灯式シールドビームを採用し、最高級車としての品格を更に高めた。配光性能はシールドビームの採用により、高い性能を得ることができた。
フロントコンビネーションランプは新デザインされたバンパーにジェミニ1800用をビルトインした。
その他XE,XG,XC系にルームランプ,スポットランプ,ウォーニングランプ(ドアー・シートベルト)を組込んだオーバーヘッドコンソールを採用、全車に白色レンズに赤色レンズを組込んだコートシーランプを左右のドアーに取付け、安全性の向上をはかった。
(2)メータ関係
メータの外観は図10に示すように、ドライバーを中心にしてパノラミックに配置しており、基本的には従来型で好評であったレイアウトを踏襲している。メータの構成は樹脂一体化により大巾な軽量化と合理化をはかり、メーターパネルのオーナメントとして本木目およびポリエステルシートを設定した。

図10.メーターパネル


このオーナメントとパネルのヒートサイクルによる影響を防止するため、パネルはASGとしている。また、このパネルには光輝部分を設けているが、一般的に施されているホットスタンプ処理ではASGのガラス繊維による表面仕上りに難があり、多少工数増の結果とはなったがクロームメッキの金属リングを圧着した。
この結果、外観品質は非常にすばらしいでき映えとなり他に類をみない高品質,高品格のメータパネルを完成させることが出来たと自負している。
照明方式については、最近流行の透過照明とするか従来通りとするか実車テストも含めて慎重検査した結果、最高級車としてふさわしく品格のある間接照明方式を採用した。
メータの視認性は、無反射レンズを採用するほか、ADR基準にも適合させ、ポテンシャルを高めた。
ウォーニング類は、図10に示すように、6ケの集中ウォーニングと各ゲージに組込んだLEDによるウォーニングを配置した。従来型に比較して、チャージ,サージタンク液量,ウォッシャ液量,ヒューズ断線検出,ストップランプ断線検出のウォーニングを、新しく追加した。
なお、それらの全てのウォーニングは、エンジン始動時、一斉に点灯する機能を盛込み信頼性の向上に努めた。
時計はXEに水晶発振による螢光表示管式デジタル時計を採用した。その他の車種には水晶発振式3針時計を採用し、デジタル時計との組替え可能な設計とした。
その他、分流式アンメータ,プラグイン式スピードメータケーブル,ワンタッチ零戻し式トリップメータ,チャイム式速度警報等の採用、およびフェール・サーモメータの精度向上を行ない、安全性,操作性,商品性の向上をはかった。
(3)ラジオ・ステレオ関係
雑音除去装置を内蔵したAM−FMマルチ5ボタン式ラジオを全車に、カセットステレオデッキをXE,XC,XC−J,XT−Lに標準装備とした。
スピーカはXEに4スピーカシステムを採用した。その他の車種にもオプションで装着が可能である。リヤスピーカは国産車で初の大口径16cmのフリーエッジスピーカを採用し、フロントスピーカは小口径ながら5Wの高性能スピーカを選定した。この結果、歯切れのよい最高のサウンドが楽しめるシステムにできた。
アンテナは全車にリヤガラスアンテナを新規開発採用し、前方視界の向上をはかると同時に、アンテナをエンジンルーム内の各種電装品の雑音源から遠ざけることにより、ラジオへの雑音混入を少なくした。
(4)スイッチ関係
スイッチ類は、従来型では分散配置されていたが、ジェミニで実績のあるものを流用して、ステヤリングカウルに集中配置し、操作性と美観の向上をはかった。
その他、ライティング,リヤデフォッガスイッチはファシア右下に、リモコンミラースイッチ(XE)はステアリングカウルの下に配置した。なお、新規採用の電動式トランクオープナのメインスイッチをハンドブレーキステムの右横に,コンシールドスイッチをグローブボックス内に配置した。
(5)ハーネス関係
ワイヤーハーネスは、エンジンルーム内の一部に蛇腹式樹脂プロテクタで保護したり、各所にCNコネクタを採用し、コネクションの信頼性を向上させる等きめ細かい改良を行った。
回路は特に信頼性の向上に努めるため、ヘッドランプ回路にサーキットブレーカの採用,点火系回路にフュージブルリンクの採用等を行った。
大方のリレー類は、エンジンルーム内より室内ファシア右下のリレーボックスに集中して取付け、泥水,埃などからさけるようにした。
(6)ワイパ・ウォッシャ関係
ワイパ・ウォッシャ関係は、従来のものを踏襲しているが、ビビリ振動対策等若干の変更を行った。また、全車にウォッシャ連動の間欠ワイパを採用している。
(7)バッテリー
電解液の減少が少ないメインテナンスフリーバッテリーを新規開発採用した。
今回採用したメインテナンスフリーバッテリーは、極板格子体をSbの量を少なくしたPb−Sb合金を使用しているので、従来のバッテリーに比較して充電末期電圧が高く、しかも、バッテリーの使用中に水素過電圧が低下する傾向が極めて少なくなっているので電解液の減少は格段に少なくなっている。また、極板の高さを低くし、その分電解液量を増大しているので、さらにメインテナンスフリー性能を高めている。実車テストの結果、最低2年間、補水が不要であった。

【つづく(2003/08/03)】

5−6.車体関係
事体構造は、基本的には、従来からの踏襲であるが、フロントエンド回りの大巾な結構の合理化を実施した。
又、フロントエンドパネルをエアダム風の形状にして、空気抵抗の減少、操縦安定性の向上を計ると共に、ポルテッド化し、サービス性の改善を行った。
外装品は、バンパおよびラジェタグリル回りを一新した。バンパは、上下分割構造を採用し、上部メッキ面の一体成型を可能とした。この構造の採用により、継ぎ目の廃止による外観向上、プレス型の簡易化およびメッキ面の減少を可能にした。また、バンパ先端には、全局に亘りプロテクタラバーを装着し、歩行者への安全性向上及び車両ダメージの減少を考慮した。(図11参照)ラジェタグリルは、ヘッドランプリム部も含めた一体樹脂成型品を採用して、従来品に比べ軽量化、部品点数の減少及び取付作業性の向上をはかった。

図11.バンパ構造図

今回のフェイスリフトの重要テーマのひとつとして、防錆対策の向上があげられる。ボディの防錆対策としては、特に条件の厳しいロッカー部に電気亜鉛メッキ鋼板を採用した。また、モールデング取付部には、樹脂製プロテクタ,樹脂クリップ,アルミナットおよびステンレススクリュ等を用い、ロッカー部のステンレスモールデングにモリブデン1%含有のSUS434を適用するなど万全を期した。

6.性 能
6-1.動力性能
エンジンの出力性能は、DOHC,SOHCとも基本的には、従来のものと変らない。
今回は、主にエンジン細部のチューニングとトータルギヤレシオを十分に吟味した。
その結果、動力性能,ドライバビリティ,燃費は、車種構成を考慮し、バランスよくまとめることができた。市場からの要求が強かったDOHC,5速マニュアルトランスミッション車は、走りに徹するにふさわしい車として新たに誕生したことは、この良い一例である。

図12.アンダ・オーバステア特性

6-2.操縦安定性・乗心地
従来からポテンシャルの高い操縦安定性は、ステヤリング系のリンケージ,ギヤボックスのVGR化など、主に、ステヤリングを主体に検討を加えた。
特に、XE,XT-Lにはエンジン速度感応型のパワーステアリングを採用した。従来の「ただ軽ければ良し」とするものとは、趣を変え、軽く、且つ"自然な操作感"をえるよう検討を加え、狙い通りの結果を得た。
一方、よりハードな運転を好むユーザーに対して、リヤにスタビライザーバーを装着した結果、ロール角を小さくし、好ましいアンダー・オーバーステア特性がえられた。図12に、ステア特性,ロール角を示す。
乗心地面では、従来からの固有技術を有効に生かし、サスペンション系各部のゴムブッシュ,ショックアブソーバー特性,エンジンマウントなどをみなおし良い結果をえた。
6-3.振動・騒音
今回の主要テーマの一つである振動,騒音は、大別して、エンジン透過音とサスペンションおよび駆動系からの振動,こもり音を重点に検討を加えた。
前者の対策は、主にダッシュまわりの板厚アップと各種の防音材など十分に吟味し透過音の遮断に努めた。
後者は、サスペンション系のゴムブッシュ類、エンジンマウントの材質,硬度,形状およびボディとの結合方法、2分割のプロペラシャフトなどにより対処した。
結果は、図13に示すごとく当初目標としたレベルをクリヤーし目的を達した。

図13.車内騒音(前席 TOPギヤー)


6-4.空調
従来のダッシュタイプから、ビルトインエアーミックスタイプへと大巾な変更を行なった。暖・冷気をミックスし、好位置に設けた12ケ所のエアーアウトレットへ適正にエアーを配分し、吹き出すエアーも上下に温度差をつけた。
この結果、任意の温度が選らべるばかりでなく、雨天時におけるガラスのくもりも同時に除去でき、四季を通じて快適なエアコン性能がえられた。
図14は、フィーリングによる評価結果である。

図14.エアコンフィーリング評価


7.あとがき
以上述べたように、'78年型117クーペは、流麗なスタイルと高級感を生かしつつ、より近代的にリフレッシュし、車としての完成度を高める事が出来たと考えている。これは、本質的な美しさを持つ117クーペだからこそ、表面的な飾り立てでなく、内容を充実させようという点でこのモデルチェンジに直接・間接に関与した人々が努力した成果と言えよう。今後も個性を大切にするエンスージアストの要望にこたえるスペシャルティカーとして、この車を熟成させて行きたいと思っている。
おわりに、社内・社外の関係各位からいただいた絶大なご協力とご尽力に対して心から感謝いたします。

【了(2010/12/02)】


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